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  4. 雅子さまの心のリハビリテーション

エッセイ

2010年2月5日、宮内庁は雅子さまの治療にあたっている東宮職医師団より、これまでの病状、治療、そして現状についての見解が文章で発表された。昨年末より朝日新聞の知己の記者から、宮内庁よりこの発表があった時には、専門家の立場でコメントを欲しいと依頼を受けていた。5日午前、それも早い時間だったので、些か戸惑いながら、朝日新聞社から送られてきたFAX、「皇太子妃殿下のご病状に関する東宮職医師団の見解」に目を通した。

私のコメントは、その日の朝日新聞夕刊(残念ながら長崎では発売されていない)の『雅子さま、着実に快復』といった見出しの記事の中で、識者談話として
『今、大事な段階:ストレスケアに詳しい西脇病院(長崎市)の西脇健三郎院長の話 
かなり快復されていることが読み取れる内容だ。ただ、見解が快復に向けたご本人の努力やご家族の支え、愛子さまとのふれあいを強調していることにはやや違和感がある。本人や家族が努力してもなかなか快復につながらなかったり「頑張れない」状況に追い込まれたりという人を大勢みてきたからだ。一般の人でも心の病から職場復帰するとき、いきなり元の職場でフルタイムで働くわけではない。雅子さまが今、心のリハビリテーションという大事な段階にいると受け止めるべきではないか。』
と掲載させてもらった。

今回の「東宮職医師団の見解」を読んで、私の感想は、概ね記事として紹介された通りである。ただ、紙面の都合もあり、充分、かつ詳細に私の私見が伝わったとは言えない。そこで、もう少し詳しく述べさせてもらうことにする。

「...見解」では、まず"ご病名の確定とご治療の開始"にふれている。そこで気になるのは、発症当時の雅子さまの病状は、"精神的・身体的エネルギーが低下されてお住まいからもお出になることもできないほどに深刻なものでした"と述べてある。
私もしばしば、一般の方でそのような患者さんに接することが多い。そういった方は、概ね、元来、精力的で、対人関係も気配りのよく効く、頑張り屋さんで、世間でも評価の高い、至って健康な人が多い。そのため、そのような精神的・身体的エネルギーが低下しているにも関わらず、懸命に努力され、ますます消耗し、さらに抑うつ状態に陥っていくのが常である。また、人と人との関係でも、気遣ってくれる相手、そして支えてくれる人に対して、それに十分に応えることのできない自分を責める、いわゆる罪責感に支配される方がほとんどと言っていい。

そして、「...見解」による、その後の"これまでのご治療の経過"では、雅子さまの元来の健康度の高さが強調されている。だから、無理に無理を重ねて、このようになられた、といった視点を持つべきではないだろうか。そして、"驚くほどの努力と工夫"が、かえって快復のエネルギーを削ぐ結果になったのではないか。また、"皇太子殿下の暖かい支え、愛子さまとの愛情あふれる触れ合い"を、そんな支えに応えられないことへの申し訳なさ、もっと愛にあふれた触れ合いを...との思いへのもどかしさ、といった日々をお過ごしになられていなかっただろうか、と勝手に当時の雅子さまの思いをご推察申し上げてしまう。
そんな深刻な病状の時期に対する東宮職医師団の治療的介入については、この「...見解」では伝わってこない。もし、その時期に適切な治療的な介入がなされていたとしたなら、もっと快復が早まったのではと、憶測したくなる。

だが、現在は"着実に快復に向かっておられる"とのこと、喜ばしいことである。ただ、"なお体調には波がある"とし、"活動に幅を広げるにはさらなる時間が必要"と述べている。
ということは、雅子さまは、心のリハビリテーションの段階に入っておられると理解していいだろう。

一般では、この時期には、SST(生活技能訓練)、デイケア、そして最近は復職プログラムなどが行われている。そこでは、医師のみではなく、様々な専門医療職が、さらなる快復のために、各々の職域に応じて必要な時に関わり、必要なことについて助言、支援を行い、患者のスキルアップを図っている。
「...見解」では、リハビリテーションといった用語は、用いられていない。しかし、雅子さまは、非常に大切な心のリハビリテーションの段階に入っておられることが、"今後の展望"で読み取ることができる。だが、"今後の展望"では、そんな心のリハビリテーションの段階にある雅子さまへの理解と協力をマスコミ始め国民に求める文脈になっているのみである。
とにかく「東宮職医師団」、いや、リハビリテーションの段階に入っているのだから「東宮職専門家医療集団」とでもすべきかもしれないが...、そういった見解を公表された方々には、雅子さまの心のリハビリテーションを強調し、それを着実にすすめるにあたって、ある程度の内容にふれてもらいたかった。
では、それを着実にすすめる内容とは、私は、ご公務と私的活動(愛子さまの養育、ご友人方との交流など)のバランスの取り方、とくに公務に関しては、その優先順位の手順などについて、多少なりともふれ、快復にどう繋げるかの方向性が示せなかったかと思う。繰り返しになるが、それが、雅子さまの心のリハビリテーションの一環であり、かつ重要なものであることが、この「...見解」では、今ひとつ伝わってこない。もし、それを伝えることが現状では難しいのなら、せめて、このような課題を雅子さまのご意向、宮内庁のスケジュールなどを踏まえた上で、治療、リハビリテーションを行う立場で検討を加え、ご助言を行われているか、否かは知りたかった。

そして、これからは是非、治療、リハビリテーションを行う立場から検討を加え、ご助言を行なっていただき、できるだけそれを公表していただきたい。
それが、雅子さまのさらなる快復を我々国民が正しく理解することにつながり、さらに、雅子さまの公私の行動に対する要らぬ論評(雑音)から雅子さまをお守りし、ストレス軽減のお役に立つと思うからである。

*「皇太子妃殿下のご病状に関する東宮職医師団の見解」(宮内庁HPより)