長崎県における精神鑑定の謎
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(火)
08月
【 エッセイ 】
2010年8月19日、措置入院の精神鑑定の要請を受けた。精神科病院の入院形態として、大きく3つある。その一つが措置入院である。他に任意入院、医療保護入院があるが、精神鑑定を必ず必要とするのは、措置入院のみである。その他にも精神鑑定として、司法精神鑑定などあるが、話がややこしくなるので、ここでは「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下:精神保健福祉法)」基づくこの3つの入院形態について簡単にふれ、そこで措置入院の要非を決定する精神鑑定にまつわる、最近、些か気がかりな担当行政機関の対応についてお話してみたい。
本来、医療とはその医療を受ける側(患者)に、治療を受けるか否かの選択と同意の権利がある。概ね一般医療では、医師よりその病状の説明を受け治療に同意した上で、治療関係が成立する。ただ、精神科医療では、患者の現実検討能力の低下、病識(自らが病であるとの認識)の欠如といった病態を有する方が多い。そのため、とくに、その入院の決定には、一般医療における医師、患者間との説明と同意に基づく一般(自由)入院に準じた任意入院(その違いは、任意入院の場合、病状観察のため72時間の退院制限ができる)が、まずある。それに加えて、先に述べたように精神科で取り扱う患者の多くが、「現実検討能力の低下、病識(自らが病であるとの認識)の欠如といった病態を有する」ことから、本人に治療同意を得られない場合の入院形態がある。それが、医療保護入院と措置入院である。
医療保護入院とは、精神保健指定医という資格を有する精神科医が診察の結果、医療及び保護のために入院を要すると診断した場合、本人の同意がなくとも保護者、または扶養義務者の同意により、精神科病院に入院させることができる制度である。
そして、措置入院だが、「ただちに入院させなければ、精神障害のために自身を傷つけ、または他人を害するおそれがある」と、2名の精神保健指定医の診察が一致した場合、都道府県知事、または政令指定都市の市長が、精神科病院に入院させる制度である。
私は、2010年8月19日に長崎県の精神保健担当部署から、その精神保健指定医の1名として、措置入院の可否に関する精神鑑定の要請を受け、それに応じた。そこで一つ目の謎である。精神鑑定の診察にあたって、2名の精神保健指定医が同時に鑑定を行なうか、一次鑑定、二次鑑定と1名ずつが別々に時間を取って行なうか、との問いかけであった。ここで、措置入院の決定に関しては、「2名の精神保健指定医の診察が一致した場合」である。同時間に一緒に2名の精神保健指定医が行なった場合、どちらかの精神保健指定医が、診察する上で、他の1名の精神保健指定医による診察に影響を受けないだろうか?やはり、ここは、患者の病状などで、緊急やも得ない場合を除き、一次鑑定、二次鑑定と分けて行なうのが法の精神に沿ったものである、と思うのだが...。この最初の謎解きは後ほど行なうことにする。
二番目の謎である。それについては、今回の精神鑑定の件から些か遡った長崎県と当院のやり取りのところからお話させていただきたい。
精神科は、このように鑑定結果の記載を書面に行なったりと、様々な書類の作成業務がある。他の科でも精神科ほどでもないが、やはり、そのような書類作成業務が診療の妨げの一因となっている。それを受けて、厚労省もクラークの配置、書類のパソコンによる作成、電子カルテ化などをすすめている。当院もそういった流れの中で、独自にパソコンシステムを開発し、多くの書類も独自に作り込みを行なってきた。そういった書類の作り込みに関しても、長崎県の情報システム関係を企画する部署は関心を寄せ、これは本来、行政が作成して各医療機関に提供、ダウンロードできるようにすべきだと指摘もいただき、当院をモデルに精神科領域での実現に向けて話をすすめることになった。そこで、手付かずであった措置入院に関する書類についても精神保健担当部署の方に加わってもらい協議を行なったが、精神保健担当部署の方は、精神保健指定医、本人の認証の問題があるとのことで、その話は断ち切れになった。
ここで、8月29日の鑑定の日に戻ろう。私は、指定された鑑定の場所に赴いた。そこで、5年に一度、精神保健指定医更新の都度、交付される本人の写真が添付された名刺サイズよりやや大き目で見開きの「精神保健指定医の証」を提示、もちろん診察を行なう被鑑定者にもそれを提示した。つまり、私が精神保健指定医である、という認証の儀式をまず行なったわけである。その時、すでに被鑑定者などから、情報を収集されていた県の精神保健担当部署の方は、「わざわざ、持ってきていただいたのですね」といった意味合いのことを言われた。私は"え~っ"と思いながらも、診察を開始した。
診察にあたっては、書式がパソコンで作成された精神障害者調書に県の担当者の方が、詳しい情報を入力されており、診察をすすめるのにずい分助かった。診察後、措置入院に該当する旨の診断結果を伝え、その精神障害者調書などの写しをお借りし、診断書の用紙をいただき、その場を後にした。病院に戻り、当院の情報企画担当者に、これだけしっかり情報をまとめてある精神障害者調書と診断書が同じ「CD-R」なりに納めてあれば、診断書の作成がずい分楽だよ、と伝えたところ、先の協議の場での認証の問題が...とのことであった。おいおい、待ってくれだ。認証とは、まず被鑑定者の診察を行なう前に、それを要請した県当局者によって、精神保健指定医が到着した段階で行なうことではないか...。驚いた!この謎、というか矛盾は直ぐに分かった。
早速、その旨伝えたところ、精神障害者調書と診断書の書式が慌てて作成されて、「CD-R」に納められ、持参されてきた。そして、そこに添付文書が添えられていた。「精神障害者調書に関しては、個人情報になりますので、お取り扱いには十分ご留意いただき、使用後は「CD-R」を確実に破棄いただきますようお願いします。」と。これもチョット待ってくれだ。私はその同じ精神障害者調書のコピーを8月29日に鑑定診察後いただいて帰ってきている。それについては、焼却、ないしはシュレッダー処理のご指示はいただかなかったはずだが...。
移行期である。従来通り手書きのままがいい、とおっしゃる精神保健指定医の先生はそうしていただいていい。それで当面、2本立てでいいではないか!しかし、確実にパソコンでの診断書作成が容易と思っておられる精神保健指定医の先生が増えておられることは間違いない。措置入院の可否の鑑定医探しに鑑定を要する該当者が発生する都度、ご苦労されているのは精神保健担当部署の方々ではなかったかなぁ?
そうそう、最初の謎、同時診察の件の答え探しをしなければならない。以前、県には医療保護入院、措置入院、それが長期に及ぶと定期病状報告などと診断書の堤出を求めている。そして、その際の診断書の書類の色は、入院形態、各病状報告書ごとに異なっていた。よく憶えてないが、医療保護入院は黄色、定期病状報告書は青色など、と。パソコンに書式を作り込み、印字してプリンターで出す時は、毎回、その色紙を変えなければならない。面倒な作業である。そこで、県の精神保健担当部署に尋ねたところ、「その部署で色分けしていると整理が容易だから」とのことである。そこで、厚労省に直接問い合わせたら、「厚労省としては色の指定はしていない」との回答であった。そう色分けは、精神保健担当県職員が書類の仕分け、管理を容易(楽)にするために過ぎなかったわけである。同時診察による鑑定も時間が半分ですむわけだ。これまた、精神保健担当職員は、時間短縮で楽になるよね。
「人の痛み、思いを敏感に捉える...県政」と言っておられる長崎県職員から叩き上げの島原出身のおっさん、いや失礼、長崎県知事殿。先のお言葉は誰に向かってですか。長崎県民に?それとも長崎県職員にでしょうか?