夢のまた夢、無理だね!
05
(水)
01月
【 エッセイ 】
以下、2010年12月23日長崎新聞「2010回顧・ニュース長崎【5】」より。
『...寺田隆士県教育長は10月「非常事態」を宣言した。-中略- 年明けには、心療内科医や企業の人事担当者らでつくる「専門家会議」を発足させる。「県内教育関係者の総力を挙げて取り組む」。寺田教育長は口調に力を込める。...』
心療内科医、長崎にはそんな専門医はいないはずだ。長崎県下に心療内科のクリニック、診療所が乱立しているが、その開設者はほとんど精神科医である。一般内科医が数名いるかな。長崎市民病院で精神科が開設した時に「精神科には偏見があるから」と自らは堂々と精神科医と名乗りつつ第一標榜は心療内科と命名されたのが始まりである。
それは当時の全国的風潮でもあったが、最近では全国の数少ない心療内科医より批判がでている。2010年5月30日、讀賣新聞には、全国の心療内科医を表で示し(もちろん長崎は含まれてない)、-心療内科、少ない専門医-との見出しで、京都の心療内科医が「心療内科を掲げる医療機関は、精神科医が、患者が受診しやすいようにと名乗っている場合が多い...」と語り、記事には心療内科の代表的な対象の疾患が列記されていた。その疾患は精神科医が携わるものはほとんどなく、積極的に治療できるものでもなかった。さらに、精神科医が心療内科を第一標榜することで、近年多くの問題がおきている。そのことについては、これまで、私のブログ、拙書「依存症治療の現場から!!(みずほ出版新社)」でふれている。
だが医師は、医学部卒業後、大学病院等のどこの科で臨床経験を踏もうと、開業時の標榜は自由である。だから、私が「産婦人科」を標榜してもいい。しかし、安全な分娩を行なう自信と技術は、もちろんトレーニングを受けてないし、場数も踏んでいないから、あるわけない。そこで、出産前後のいわゆる母親の抑うつ状態を治療するとふれこみ、産婦人科を標榜して、そこに紹介患者、口コミの患者が訪れ、そんな産婦人科だと認知され、経営的に成り立てばいいわけで、それならそれで構わないわけだ。でも、そんなことは現実的ではない。
ただ確かに、精神科と心療内科は病、患者の訴えなど、被るところがある。いわゆる根っこは一緒である。
ストレスがかかる。そこで、身体が悲鳴をあげて、ストレス性胃潰瘍、喘息、帯状疱疹等々...、これは心療内科だ。心が悲鳴をあげ、うつ病、適応障害等となると、精神科ということになる。これが時に重複することがある。ストレスから、うつ病にもかかったが、胃潰瘍にも罹ったとなると、長崎県では心療内科の専門医はいらっしゃらないので、うつ病は私ども精神科医が診て、胃潰瘍は消化器内科医に治療をしていただくことがしばしばである。そこで、そんな被さたり、重複する疾患があるからと、心療内科を専攻している医師が第二、第三標榜として「精神科」を掲げるのは、少しも構わない。精神科医も同様だ。よって、当院も第三標榜として「心療内科」を標榜している。
そうそう、ストレスがかかると、人間はもう一つ反応することがある。どうも私が知る限りでは、今回の一連の県教職員の不祥事、ワイセツ行為、盗撮、窃盗、飲酒運転等々もそれのようだが...。つまり「分かっちゃいるけど止められない」というやつだ。これはストレスを回避する行動(反応)なんだよね。それが不祥事ともなれば、それは嗜癖(アデクション)、依存症と、これまた精神科対象の病といわざるを得ない。そしてこれもまた、うつ病、適応障害等の他の精神科疾患とも重複していることが、そんな依存症治療現場で多くの患者を診ている精神科医の間で指摘され始めている。加えて、この不祥事は犯罪行為だから、司法精神医学の領域にもおよび、精神鑑定、心理鑑定(臨床心理士が行なう)等も視野に入れなければならない。それにも増して、それを病としてとらえる場合、それが精神科領域であるなら、第一次予防から第三次予防に至るまで、「精神保健福祉法」を適用させねばならないことにもなる。
そうなると場合によっては、回復・治療、生活の立て直しにあたっては、その法に沿って行うことにもなる。それは精神科専門医である精神保健指定医のみならず、臨床心理士、精神保健福祉士の援助も必要である。さらに、残念なことに、このような不祥事の元凶となっているアデクション、依存症治療の実践を行なっている精神科医療従事者も、これまた非常に限られているのが現状である。そうなると、心療内科医の関与の余地は全くない。
お分かりいただけただろうか。再び、冒頭の新聞記事の話に戻すと、どなたを人選されたのか知らないが、全国の心療内科の数少ない専門医にとっては、迷惑な話である。これでは「専門家会議」とはいいがたい。こんなことでは、教職員の不祥事対策は夢のまた夢、無理だね!そうだ以前にもあったな、県教育長「異例の早さで」って。ヒョットしたら一人の女子高校生の心を傷つけたんじゃないかってことが...。体質なのかな!?
よかったら「依存症治療の現場から!!(みずほ出版新社)P194~195」をご参読下さい。