誰のための個人情報保護法ですか?
28
(火)
02月
【 エッセイ 】
私の病院は、2011年5月17日、長崎県行政当局に送られた一通の匿名メールで、医療安全に問題あり、として抜き打ちの立入り監査を長崎市保健所より受けた。結果、医療安全、院内感染対策に関して何ら問題ないとの回答を得た。
その後、当院の知る権利として、この立入り調査に至る経緯について問いかけ続けているが、個人情報保護条例を盾に、全ての質問に行政当局は「無視」の姿勢である。
そのような「無視」を続けていているお役所でも決まりごとだけはきちんとなさるようである。
2012年1月25日に長崎市保健所の年に1度の定例の立入調査が行われた。そして、2012年2月20日には、これもまた年に1度の「精神科病院実施指導及び入院患者病状実施審査」が長崎県福祉保健部障害福祉課によって行われた。
当院は電子カルテ化されている。それも完全電子カルテ化である。長崎県下で電子カルテ化されている精神科病院は幾つかあるが、一部まだ紙情報を併用しておられるので、当院における監査には戸惑いが隠せなかったようであった。このようなIT化推進については、その必要性を2010年8月のブログで「長崎県における精神鑑定の謎」と題して掲載した上で、それを拙書「依存症の現場から」に再掲している。その拙書は、今回監査に来られた県職である精神科医にはお送りしたはずだが...。お忙しくてお読みいただいてなかったらしい。だからであろうか、彼は決してIT化、電子カルテに精通している、といった印象ではなかったようだ。それにもかかわらず、病棟現場で「ここのS先生は使い込んでいるの...?」と質問されたそうだ。その場にいた当院職員全員、ムッときたそうな。Sドクターの名誉のために言わせていただきたい。彼は長年、精神病理に深い関心を有し、従来の技法の面接(精神療法)には、電子カルテは馴染まない、といった考えを持つベテランの精神科医である。しかし、医療制度の変化、IT化の流れのなかで、当院の電子カルテ化に内心疑義はあったかもしれないが、新たなシステムを受け入れ、使い込んでおられる。失礼である。これも、厚生労働省が定義したパワハラ行為の類型化⑥の「個の侵害:私的なことに過度に立ち入る」にあたる。
もちろん、新しいシステムの導入である。立ち入り調査の行政当局は、むしろ、新システム導入に伴い、それを上手く活用できないために医療サービスが低下していないか、つまり、医療安全が疎かに、とくに電子カルテ化によって患者の個人情報の保護、管理がしっかりなされているか否かを徹底的に監査すべきである。それがどの程度十分になされたか、私のもとに当院担当スタッフから全く報告はなかった。
2012年2月22日、当院の職員に長崎市福祉課より、「当院へ入院中の患者の父が1月末に入院して結核と判明し、直ちに保健所に届出がなされた」と電話連絡があった。
結核予防法では感染拡大防止のため、患者に対する濃厚接触者の確認は保健当局の重要な責務である。それは、最近ではタレントのジョイが結核に罹患し、メディアにも取り上げられ記憶に新しい。その父は結核が判明する一週間ほど前にも息子の面会に来院しており、それ以前にも数回来院している。そこで、面会の手続きのために当院職員ともその都度接触していた。当院は直ちに、当院に非常勤で勤務している地元大学病院の呼吸器を専門とする内科医に連絡、対策の指示を仰いだ。幾つかの指示を受けてそれを実行している。
この間、判明したのがほぼ1ヵ月前だ。長崎市保健所にはその段階で結核予防法に基づいて、結核と診断した医療機関より通報が行われている。そこで直ちに濃厚接触者の把握を行うべきである。家族は当然、濃厚接触者のトップにリストアップすべきだし、その家族の一人が医療機関、施設などで処遇されている場合は、集団感染防止の観点から、その感染患者の個人情報である結核に感染した事実は速やかに開示、報告する責務が長崎市保健所にはないのか。1ヵ月も経過して、それも公式な情報としてではなく、他の部署よりの問い合わせで判明したのだ。あの匿名メールのみで、速やかに「医療法25条の1項」を施行した同じ保健所のやることだろうか。そして、その法の施行(匿名メールの件)の経緯については、個人情報保護条例に基づいて、当方の問いかけには全て「無視」である。
このしばしば面会に来る父の結核感染の件、当院で結核の集団発生を招いて、医療安全、院内感染対策に問題あり...、よって管理者の私は責任をとって自殺して全てが一件落着。きっとそんな頃には、テレビからはAKB-48の自殺対策キャンペーンのACが流れているに違いない。これが、これからの日本の姿...空しいね(苦笑)。
これでは「個人情報保護法」は行政職員の保身のためにあり、我々国民に寄与してくれているとはとても言い難い。
厚生労働省が定義した職場のパワハラ、これは過度な「社会的ストレス」と同じことである。よって、職場のみに留まらない。利害関係の生じる組織間でも適応されるはず。官が法の名の下、不必要に「無視」、「個の侵害」を行うのは、これもパワハラだ。いや、それ以上なのかもしれない。
野田内閣は最近、共通番号制度法案を閣議決定した。私は国民個々の健康管理の観点から、これまで賛成の立場だった。しかし、このような地方のヘッポコ役人がやたらと法を自己保身のみで行使するようであっては、再考の余地ありかな...。
ここで、私のブログを読んでいただいている方々のご意見を伺いたい。
もちろん、匿名、実名何れでも結構。この2011年5月以後の長崎の行政の動き(何も動いていない動き)と私の反応について、当方のブログに掲載の可否も記載の上で、忌憚のないご意見をご一報いただきたい。