僭越ながら、こんな時には"見て見ぬ振り"を...
01
(火)
01月
【 エッセイ 】
「私の感想ですが、おたくの病院の電子カルテは使いにくい。非常勤で来られるドクターはお困りでしょうね」と。2012年12月21日に行われた長崎市保健所が毎年行う「医療法25条」に基づく定期監査の最後の総評の席で、長崎市保健所長がそんな趣旨のことを述べたと、そこに同席していた当方のスタッフより報告を受けた。
私は、"見て見ぬ振り"をよしとされる長崎の行政のことだから、どうせ総評もなく帰られるかと思ったが、規程のルール沿った総評に加えて、ご丁寧にも感想まで述べていただいたそうな。
それも使いづらい電子カルテで、常時勤務していない非常勤医師が困らないか、と心配までされたらしい。
実は、当院の電子カルテは、2007年(平成19年)より厚生労働省に設けられた「保健医療情報標準化会議」における標準化をクリアーすべく某ベンダーと共同開発を行い、厚生労働省の監修を受けたものである。
多くの医療機関は、通常依頼したベンダーから、そこで作成されたパッケージを多少手直して導入している。つまり、人(医療従事者)が、電子カルテに合わせることになる。確かに使いづらい。保健所長はそれを懸念されたのだろう。しかし、当院では一からの開発である。他科の非常勤ドクターの意見も、その開発過程で随時取り入れている。さらに、精神科に特化した電子カルテとしては、初の厚生労働省の標準化をクリアーしたものであることから、地元大学付属病院精神科の准教授にも操作してもらい精神科臨床現場で使用するには、非常に使いがつてがいいと適マークをいただいている。
では何故、私が、厚生労働省の標準化にこだわったかである。
1998年、当時の長崎市立市民病院が、精神科の標榜では偏見があり、よろしくないとのとある精神科有識者の進言もあってか、心療内科を第一標榜して精神科医がそこで診療を行う体制にした、と記憶している。
これは、当時全国的な動きであった。しかし、公的医療機関が先鞭を切って精神科医が心療内科を第一標榜したのは、長崎市以外では聞いたことがない。
確かに、心病む方々が精神科医に気楽に受診、治療受けられるようになったことは、福音である。だが、精神科医が精神科を堂々と標榜して心病める方々を受け入れる努力を怠った、とも言える。
そして、長崎市立市民病院に見習い、雨後の竹の子の様に心療内科クリニックが市内に乱立した。精神科を第一標榜することにより気軽に受診できる。受診者は増えた。それすなわち患者数が増えたことだ。全国的にもその増加傾向から、精神科疾患を急性心筋梗塞・脳卒中・糖尿病・癌に次いで、4大から、5大疾病の一疾患となった。だが、そこまで貢献した心療内科はほとんどビル内診療所である。軽装備、夜間は無人である。反面、心病んで受診する方々の多くは夜間に不安、焦燥感に襲われる。それは、主治医、あるいはクリニックスタッフとの電話一本の対話で癒されることが大半なのだが...。しかし無人である。彼らの不安、焦燥感に直ちに対応ができない。そこで、大量服薬、リストカットを行い、SOSの電話を長崎市の救急隊にかける。そして駆けつけてくれた救急隊は、最寄りの救急病院へと搬送してくれる。それは救急は救急でも、身体疾患のみの救急、救命とは些か異なるものの様である。
それにも関わらず、増加する感情障害などの拠点病院の定義付がまだなされてない、と国立の研究部長から最近手紙があった。
そうだろう。私はこの問題について、1998年当時から懸念を持っていた。そこで、長崎市立市民病院の事業管理者(医師)へ、「心療内科」標榜について、再三手紙を書いて警鐘を発してきた。真面目な当時の事業管理者から、ご丁寧な返事をいただいた。その内容は、自分も以前、九州大学の心療内科池見教授(心療内科の創設者)の講演を聞いたことがあり、現在の長崎市立市民病院が「心療内科」を標榜し精神科医が診療を行っていることに違和感がある、とのことであった。しかし、今となっては、私の力では如何ともし難い、と。おっしゃる通り、確か市立市民病院の診療科の標榜は、市議会の医療に関する委員会で決定されるのは私も知っていた。
そこで、今度は、その委員会のメンバーでもあった福祉、医療に熱心に取り組んでいた一市議会員に対して、精神科医が「心療内科」を第一標榜することの様々な副作用と問題点について時間をかけて語り伝えたところ、その議員はうなだれ、何の反論もできなかった(そんな副作用などについてはこれまでのブログで多く語っている。とくに「四文字七音:2011年3月1ブログ掲載」は極め付けである)
実は、この長崎市保健行政当局が、臨床現場の実践には些か疑問のある長崎の精神科有識者の意見に従い精神科医療の現場に「心療内科」を持ち込んで幾つかの副作用、問題の発生している。私は、その一つである深夜無人となる心療内科を標榜するクリニックのサポート、そして、救急隊、救急病院がその様なクリニックに受診している患者がSOS、搬送された場合の必要な情報提供ができる「地域診療情報連携システムの構築」を考えた。その実現のためには、患者の情報開示のこと、閲覧者の認証のことなどなど、様々な問題が山積みだ。だが第一歩は、電子カルテの標準化である。これを行っていなければ、次のステップへもすすめない。ましてや、この事業を行うための補助金すらいただけない。
そのための精神科電子カルテである。当院の電子カルテは...。
自治体として精神科医が「心療内科」を第一標榜するをよしとされ、その結果生じた副作用、諸々の問題、それも同じ行政下にある救急隊が深刻に受け止めているのは周知のことである。そういったことを考え合わせると、本来ならこの対策、事業のスタートとなるべき精神科電子カルテの開発は、長崎市が率先して行わねばならないはずだ。また、この一連の「精神科電子カルテ開発」、「地域診療情報連携システムの構築」についての厚生労働省よりの補助金交付ついては、長崎県福祉保健部医療政策課を経て通知がなされてきた。
確か、あの虚偽の「匿名のメール」の通知も長崎県福祉保健部から所轄の長崎市保健所に下され、迅速な行動がとられた。だが今回の地域医療対策の新たな取り組みについての情報が共有されていなかった様だ。
何かそんなことを比較してみると、あの「匿名のメール」の件は裏で大きな力が働いているのでは、と疑いたくなる。一方で、長崎の保健行政の理不尽を暴露した拙書「65歳の戦」は、ネット上で検索すると上位に複数登場するが、長崎市内のどの書店でも販売していない。不気味な感じすらする。
とにかく困ったものだね。長崎県知事殿、長崎市長殿、部下の怠慢は目に余る。
そうそう僭越だが、長崎市保健所長殿、電子カルテにはご造詣が深い様だが、こんな諸事情を踏まえれば、長崎行政お得の"見て見ぬ振り"で、当院での感想は述べられなかったのが、長崎の役人らしくて、筋が通ってよかったのでは...。